奇妙な夢と、平行世界 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

奇妙な夢と、平行世界

ある日の深夜、僕はとても奇妙な夢を見た。

その夢は、

いつもの悪夢とは、違っていた。

もちろん、夢を見ている間はそれが夢だとは

文字通り、夢とも思っていなかったのだが。



夢の中の僕は、ぬれた路面がオレンジ色の灯を照り返す夜の町を、

フロントガラスから眺めていた。

夜の町には不穏な空気が漂っていた。

どこかはわからないし、夢の中の僕は、そんなことは気にもかけていなかった。

僕は夢の中でも、ひどく疲れていた。

驚いたことに、夢の中でさえ、仕事の不安に胃を収縮させ、ひどく気分が悪かった。

なんてことだ。

僕は疲れた体にむち打ち、車を運転する。

後から思うと帰宅途中だったのかもしれない。

夢というのはいつだって曖昧で、断片的で、

それでいて、絶対的な臨場感とリアリティーを秘めていた。

それはもうひとつの現実だった。


僕は交差点に車を止めたのだが、それは唐突に始まった。

僕は意識を失った。

そして、衝撃とともに目覚めた。

居眠りをして、ブレーキから足を放してしまい、

前方の車に追突したのだ。

そのとき思ったことは、とんでもないことをしでかした、ということだった。

えらいことだ。

仕事に影響しないか。

修理代は。

ぶっつけた相手はどうなってる。

一瞬にしてそんな思いが、頭の中を流れ去っていった。



目の前には何故か、バックシートが見えている。

何故かわからなかったが、その光景がとても恐ろしく、

僕は恐慌した。

すると、目の前の光景がフロントガラスにもどった。

僕はよけいに怖くなり、叫ぼうとする。

視界がぐるぐると回る。



天井





頭の中で理性が瓦解したとき、僕は目を覚ました。



しかし、それで終わりではなかった。

僕の体は凝固し、一寸も動かなかった。

声も出なかった。

部屋の中は、まるでどこかにあるもう一つの世界が重なり合っているようで、

紫色の靄にうっすらと覆われていた。

必死で体を動かそうとしたが、どうにもならなかった。

声も出ずにもがき苦しんでいると、隣に母の気配を感じた。

僕はなんとか腕を動かし、母に助けを求めようとした。

渾身の力で母を起こそうと腕を上げ、母に触れようとする。

僕の体から、まるで腕だけが引きはがされるように母の方へ吸い寄せられた。

僕の腕は、母の体をすり抜けた。

僕は完全な恐慌状態に陥った。

大声で叫んだが声は出ない。

横にいるはずの母に視線を向けることもできない。

二度

三度

四度

五度

僕は叫び続けた。

六度目か七度目でやっと声が出た。


そのとき僕は、誰もいない深夜の寝室で大声を上げていた。

そして、夢から覚めたことを悟った。

母がいないことも。



目覚めた僕はじわじわと沸き上がる恐怖に暫し放心し

夢の中で感じた母を思った。

母がこの世に存在しないという事実を、そのときはじめて受け入れたのだった。

母は僕が高校を卒業するときに亡くなっている。

夢の中では、母の存在を疑いもしなかった。

とても不思議なことだ。

夢の中で母の存在を確かに感じた。

とてもリアルで疑う余地はなかった。

そのとき、僕の中で突飛なアイデアが浮かんだ。

母が生きている、枝分かれしたもう一つの世界がどこかに存在し、

その世界と夢が繋がっているのではあるまいか?

なぜ、人は夢を見るのか?

なぜ夢を見ている間は、それが夢だとわからないのか?

人の意識だけで、あれほどまでにリアルな世界がはたして、

創造可能なのだろうか?

過去の記憶の断片から、夢が創造されるのだとしたら、

全く身に覚えのない人物に出会ったり、

一度も行ったこともない地が夢に出てくるのは何故なのか?

僕の仮定はこうだ。

それは夢がもう一つの現実だからだ。

確かな実体をもった世界が存在するからだ。

そんな妄想に取り付かれた自分を苦笑し、

僕はもう一度眠ろうとした。

しかし、母の姿が蘇り、眠ることができなかった。

僕は母に会いたいと思った。

そして、

いずれ、会えるだろうと、

確信した。